楽天・三木谷浩史の「豪賭」は結実したのか——携帯黒字化と宇宙通信で挑む2026年の新地平
三木谷 浩史という男の挑戦を、市場は常に半信半疑の目で見つめてきた。日本最大級のECモールを築き上げた創業者は、周囲の制止を振り切って携帯通信事業へと巨額の資金を投入。数千億円規模の赤字を垂れ流し続けた日々は「グループ全体の足を引っ張る無謀な賭け」と激しく批判されたが、2026年の今、風向きは劇的な変化を見せている。泥沼と見られた攻勢の裏で彼が温め続けてきたシナリオが、ついに実を結び始めたのだ。
数々の修羅場を潜り抜けてきた経営者としての凄みは、窮地に追い込まれた時ほど冴え渡る。幾度となく囁かれた破綻論をよそに、創業者の三木谷 浩史は自力での基地局建設と完全仮想化ネットワークの構築にこだわり抜いた。その執念が実を結び、単なる既存キャリアの後追いにとどまらない、圧倒的に低コストなインフラ基盤が今や完成を迎えつつある。
「赤字の底」を抜けた携帯事業——市場が息を呑んだV字回復の裏側

かつて楽天グループの株価を押し下げ、格付け機関やアナリストを頭を抱えさせたモバイル事業の巨額赤字。しかし、2025年から2026年にかけて迎えた損益分岐点の通過は、単なる縮小均衡によるコスト削減の成果ではない。自社回線のカバー率向上に伴う他社への接続料支払いの激減と、法人契約の爆発的な獲得が、噛み合い始めた最大の要因だ。
基地局投資の一巡によって生まれたキャッシュフローは、即座に顧客還元と新技術へ再投資されるグッドサイクルを描き始めた。批判の嵐に晒されながらも、絶対に前言を撤回せず攻めの姿勢を崩さなかった経営判断の正しさが、数字という揺るぎない事実となって証明されつつある。
「空からの電波」が日本を覆う——AST SpaceMobileと描く完全圏外ゼロの現実

山間部や離島、そして大地震をはじめとする災害時の通信途絶。日本の複雑な地形が抱えてきた長年の課題に対し、決定打となる一手を打った。米AST SpaceMobileとの強力なパートナーシップによる、低軌道人工衛星からのダイレクト通信サービスだ。
地上の基地局がどれほど整備されようとも届かなかった深山や太平洋上でも、既存のスマートフォンがそのまま繋がる。これは単なる技術的なアピールにとどまらず、国土保全や防災インフラとしての価値を一変させるインパクトを持つ。地上での基地局建設レースに終始していた他キャリアに対し、空へと視線を転換させた発想の勝利と言える。
「AI×経済圏3.0」の衝撃——7000万IDが叩き出すデータ駆動型イノベーション

楽天の真の恐ろしさは、単なる通信事業者にとどまらない点にある。ショッピング、銀行、証券、カード、トラベル、そしてモバイル。これらを横断する強力なID基盤の上に、独自開発された大型言語モデル「Rakuten AI」が完全に融合した。
利用者の購買行動やライフスタイルに最適化された個人向けAIアシスタントが、買い物から資産運用、旅行のプロデュースまでをシームレスにサポートする。通信単体の利益率に依存せず、グループ全体の顧客生涯価値(LTV)を最大化するエコシステムは、競合他社がどれほど羨んでも一朝一夕には真似できない要塞となっている。
批判をエネルギーに変える孤高の起業家精神
日本企業の多くがリスク回避と事前の合意形成に躍起になる中、なぜこれほどまでに巨大なリスクを取れるのか。その根底には、常に「日本発のグローバルITプラットフォームを作る」という強い危機感と使命感が存在する。
かつて社内公用語を英語化した際も、世間からは現実味のないパフォーマンスと嘲笑された。しかし、現在のグローバルな組織運営と海外市場での戦いぶりを見れば、先見の明があったことは明らかだ。周囲の反対や同調圧力に屈することなく、あえて異端であり続けることで、自社と業界全体に強制的な進化を促してきた。
既存3キャリアの猛追と価格破壊の第二幕
当然ながら、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのメガキャリア3社も指をくわえて静観しているわけではない。通信品質の維持やポイント還元策の再設計など、反撃の動きは一層強まりを見せている。
だが、一度崩れた料金体系の壁が元に戻ることはない。消費者が「安くて繋がる」インフラを当然のものとして捉えるようになった今、戦いは純粋な価格競争から「日常のあらゆる場面でどれだけ得をし、便利か」という体験価値の競い合いへと移行した。泥臭い営業力と最新テクノロジーを両輪とする戦いによって、業界のパワーバランスは刻一刻と塗り替えられている。
2026年、その先に見える新たな地平
楽天グループが迎えた現在の到達点は、決してゴールではなく、次の世界戦略に向けた滑走路に過ぎない。モバイル事業の重圧から解放されつつある今、次なるターゲットは自社で磨き上げた完全仮想化通信プラットフォームのグローバル展開だ。
世界中の通信会社が設備投資のコスト高に悩まされる中、実証された低コストな運用ノウハウは極めて高い外貨獲得能力を秘めている。かつて一人の起業家が無謀な夢として語った構想は、日本の産業構造そのものを次のステージへと引き上げる強力なエンジンへと変貌を遂げた。 (出典: 三木谷 浩史(Yahoo!ニュース))